遺伝性疾患、その他の疾患について
ラブラドールに多く見られるもの
ラブラドールやゴールデン、その他多くの純血種は、形を固定するために同じ犬種同士で交配をしています。そのため、ある血統では顕著に同じような疾患が見られるといった単純な遺伝の病気や、複合的にいろいろな要因(遺伝・生活環境・餌 等)が合わさって発症する遺伝性の病気などが多く見られます。
ラブラドールレトリバーにとって代表的な遺伝性の疾患は、股関節形成不全、肘関節形成不全、PRA(進行性網膜萎縮症の総称)、HC(若年性白内障)、RD(網膜形成不全)などが挙げられます。最近では、心臓の弁膜異常もラブラドールレトリバーに多い病気と報告され、アメリカのブリーダーの間では心臓の検査も必須事項となりつつあります。
また遺伝性ではなくとも、ラブラドールレトリバーに多く見られる疾患もあります。代表的なのがコールドテイルで、水で長時間泳ぐ犬種にはしばしば見られる冷えと疲れから来る一時的な尾のねん挫です。
このコーナーでは遺伝性の疾患や通常多く見られる疾患にスポットを当てています。
ラブラドールに多い病気
Cold Tail について
「Cold water tail」「Limber tail syndrome」「Broken tail」「Dead tail」「Broken wag」は全てスポーティングドッグに共通して見られる状態を表した言葉です。こうした単語からは、痛みを感じるのだが、どちらかといえば水泳のあとやハンティングをやり過ぎた日、或いは冷たい水の風呂に入ったり、熱い風呂だったりした場合に起きる良性の状態である。これは常に水泳や水に関係しているわけではなく、尻尾を動かしすぎるような「ヘビー」な一日を過ごした後にも見られる。報告されたケースの多くはラブラドールレトリバーやゴールデン、セッターやポインター、フラッティ、フォックスハウンド、そしてビーグルなど、スポーティングドッグ、ハウンドドッグで起きていた。しかしベルジアン・シェパードの例も挙げられていた。ほとんどの犬は数日でもとに戻るまで辛抱しなくてはならない。一度これを経験した犬達がそのライフタイムにもう一度経験するかどうかはわからない。しろうとの中には「捻挫」「繊維症あるいは尻尾が冷えた」と表す人もいる。けれどもこの状態になってしまった犬の最初は気の毒で尾は痛々しい。尻尾を持ち上げることができない。ホンの僅かに水平を保っても、すぐにだらっと落ちてしまう。
Nordic Pine labradors,Stillwater, Oklahoma のRon Mandsager 獣医が述べている事から牡も牝も同様にかかることが示されている。
「うちの牡のラブは2度、こうした状態を経験しています。どちらもハンティングできつい日々を過ごした後のことでした。最初の時はとても心配しました。尻尾はぐんにゃりしてうちの犬は見るからに不快そうでしたから。どの位この状態が続くかもわからなかったので、
(これについては獣医学部では習いませんでしたから!)骨折をしたのではないかとか、何か尻尾の神経の病気ではないかと非常に心配しました。尾の骨盤のあたりをレントゲンで見てみても、思い当たるのはたった一ヶ所だけ、尾の付け根で筋肉が腫れているところでした。
1日か2日で、自然に治ってしまいました。2度目にこの状態になった時には、この状態が現れる前にどんなことがあったかについて少し考えてみました。いつもよりずっと尾の筋肉を使いすぎていたことに答えがありそうでした。キジ猟に行って鳥を加える時、尾を上げて素早く振るのです。このつらい行事の間、彼は一晩中あるいは移動中はクレートで過ごしています。そのせいでさらに状態を悪化させてしまうのです。しかしこれは私の考察に過ぎません。証明できることはないのです。獣医としては、この状態になる疾患について見たことも聞いたこともないし、最初にうちの犬がそうなったときに尋ねた仲間達でも知っているものはありませんでした。」
獣医関係の文献の研究から現在この症候群について説明できる科学的研究は全く存在していないことが伺える。Janet E. Steiss 獣医博士と JC Wright 獣医博士はAuburn 大学の獣医学部でこの病気の原因を特定したり、どういう結果になるのかを調べる目的のプロジェクトの一環として手紙や電話での調査に取り組んでいる。彼らの最初の質問はアメリカ南部に住む418人のハンティングドッグのオーナーやトレーナーに送付された。27%の人から回答があった。その90%は10年以上もハンティングドッグのオーナーであったりトレーニングをしている人達であり、回答者達はトータルで3066頭の犬を飼っていた。その犬の76%はハンティングに使われていた。そのうちの半分は週に一度はフィールドにいて、その他半分はそれ以上の頻度でフィールドにいた。共通してこの症候群に見舞われる主な5犬種は、イングリッシュポインター、イングリッシュセッター、フォックスハウンド、ビーグルそしてラブラドールレトリバーであった。
2002年までにAuburn大学での研究はLinber tail症候群の原因に対して具体的な証明を得ていないが、疾患に見舞われた犬には筋肉の酵素の数値が上がることがわかってきている。この研究にはもっと情報が必要であるようだ。Steiss博士はイヤーブックに次のようなことを書いた。
Auburn University の獣医学部にあるスポーツメディシンプログラムの研究者達がハンティングドッグに於けるぐにゃんとした尻尾の症候群について先陣を切っている。この状態は、イングリッシュポインターや、イングリッシュセッター、そしてラブラドールレトリバーに見られる。原因の解明は現在のところまだ終わっていない。しかしこの状態が直前まできつい仕事や冷たく湿った気候に曝されたとき、あるいは長いこと移動ケージに入れられていた時に起きやすいことはわかっている。概して犬は通常の尾の位置よりも低いところにあり、自分で尾のコントロールができない。注意深く触診すると尾の付け根近くに痛みがあるようだ。さらに2〜3日で回復する。
考えられる原因や予防、あるいはケアについてより多くの情報を入手するために、Auburn 大学の獣医師達はこうしたLimber Tailとみられる犬を所有するオーナーあるいは診察した獣医師の協力を得られたらと考えている。
股関節・ひじ関節形成不全
股関節形成不全
CHD(股関節形成不全)は複数の遺伝子が関与し、複雑な遺伝様式を持っているために単純な遺伝法則は成り立たない遺伝疾患です。
CHDに関与している遺伝子の中には、優性の遺伝子、劣性の遺伝子、共優性の遺伝子が混在していると考えられています。(*共優性遺伝とは、どちらの遺伝子も優性ではない状態。)
これがCHDを発症させる遺伝的因子を分離同定することをとても難しくしていると考えられるそうです。
CHDの遺伝的なマーカーを見つけ出す研究はされていますが、CHDかそうでないかを遺伝学的に調べる方法はありません。
ですから今のところ、レントゲンによって症状がでているかいないかによっての判断しかないのです。
CHDは犬が生後獲得するものではない(生つきもっているもの、すなわち遺伝です。)のですが、最初は正常な仔犬とCHDの子犬の区別はつきません。
成長過程で股関節寛骨臼の発育不全や変形、大腿骨頭の変形や扁平で股関節が正常な形に形成されない病気です。
症状は4ヶ月〜12ヶ月くらいの時期にでることが多く、見るからに跛行しているとか立ち上がれないという症状は稀です。
また、この時期に症状がでていても、成長とともに関節の周りの筋肉に支えられ、症状が和らいだり無くなってしまう場合もあります。
逆に年齢を重ねるにしたがいCHDが誘引となって変形性関節症になり、関節が変形し腫れや痛みが発症、さらに進むと四肢の機能障害をおこすこともあります。
CHDはレントゲンで見る関節の状態と症状が必ずしも一致しません。
レントゲンでは重度でも症状が全くないこともありますし、逆にレントゲンでは軽度でも跛行がひどく痛みを訴えることもあります。
歩様観察や触診だけで判断せずに、必ずレントゲンを撮り、診断を受けることが大切です。
またCHDと診断されたら、完治のない進行性の病気だということを頭に置き、定期的なレントゲン検査で関節の状態を把握しておくことも大切なことです。
肘関節形成不全
肘関節は上腕骨、とう骨、尺骨、の3本の骨の関節面が結合する形で成り立っていますが、 尺骨の切れ込みが小さ過ぎる為に、上腕骨をうまく取り込むことができずに関節内で不調和が生じるというのが、肘関節形成不全(ED)です。
この不調和によって、肘突起癒合(UAP)、内側鈎状突起疾患(MCPD)上腕骨内側上顆関節面の離断性骨軟骨症(OCD)、内側鈎状突起分離症(FCP)等が生じます
不調和が軽度な場合明らかな症状が出ずに、初期の骨関節症だけがみられることもあります。
肘関節形成不全(ED)も股関節形成不全(CHD)と同様に、複数の遺伝子が関与する遺伝性の発育期疾患です。
5〜9ヶ月齢前後の成長期に跛行を起こすことが多く、立ったとき肘が外、又は内側に向き外側にパドリングするように回転させながら歩きます。
左右同じに現れることが多いため単なる癖のように見られたり、跛行が出たり治まったりの繰り返しだったりするので、成長痛とされて見落とされることが多いそうです。
また、肘の屈伸を嫌がったりします。
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PRAとPRAの遺伝子検査
PRAとは
PRA(Progressive Retinal Atrophy)進行性網膜萎縮症は、ラブラドールレトリバーを含む30数犬種に見られる目の遺伝性疾患の一つです。最初にPRAという名のついた疾患がスウェーデンでゴードン・セッターに発見されたのが1911年のことで、その後1938年から55年にかけてイギリスでアイリッシュ・セッターに見つかりました。以来様々な研究がなされてきています。PRAには幾つかのタイプがあって、検眼鏡検査や網膜電図記録検査(EGR)を使って検査をした結果がそれぞれ年齢によって異なることがわかり、まず進行性であることが判明しました。
1976年にはラブラドールレトリバーを含め10から15犬種にみられるprcd(進行性桿・錘細胞変性)のPRAが発見されました。さらにラブラドールレトリバー種に見られるのは遅く発症する(late onset)タイプと言われるものです。この疾患はプードル、イングリッシュおよびアメリカンコッカースパニエル、ラブラドールレトリバー、ポーチュギーズウォータードッグ他10から15犬種に見られるもので、通常3歳から8歳位にかけて発症します。このPRAは目の中の光受容体が変性することが原因で、網膜が変性し萎縮、やがて視力の低下を引き起こし、最後には失明に至るという遺伝性の病気なのです。この疾患の特徴は「一度発症してしまったら、回復の見込みない」ということにあります。
PRAのしくみ
ラブラドールレトリバーが関わるPRAには厳密には2種類あって、最も失明の危険性が高いGPRA(び慢性進行性網膜萎縮)と最近では研究が進んで、将来はおそらく撲滅されると予想されているCPRA(中心性進行性網膜萎縮)です。CPRAについては、失明の危険性がないことから欧米ではすでに名前をRetinal Pigment Epithelial Dystrophy(RPED)に替え始めています。ですからここでは主にGPRAについて話を進めたいと思います。
GPRAには、大きく分けて2つのタイプがあります。上記で述べた通り生まれてすぐから、早期に発症するタイプと、3歳や4歳にならないと発症をしないタイプです。一般にラブラドールレトリバーに発症するタイプは後者のタイプと言われていますので、後述するDNA検査等も後者のタイプを想定して研究がなされています。
症状・・・まず第一にこの疾患は光受容器が正常に発達した後に発症するということ。大抵は、夜盲症から始まることが多いようです。その際、暗いところで物にぶつかったり、夜の散歩を嫌がったりします。(注)タペタムの反射亢進・網膜血管の狭細化などに伴い、目の反射が強くなります。暗いところでは、緑がかった反射が見られることもあります。
(解説:網膜が萎縮すると・・・網膜は、タペタムの内側にありますから網膜が萎縮してくると、自ずとタペタムが全面に出やすくなります。これを、タペタムの反射亢進と言います。タペタムという鏡を遮っていた網膜のカーテンを開けたような感じでしょうか…。したがって、反射が今までより多くなると言う事です。妙に暗いところでも、眼が良く光るなと思うようになってきたら要注意です。犬の目には、タペタム領域(ネコにもあります)というものがあります。これは、網膜の外側にある反射版と考えてください。犬や、ネコが暗いところでも良く物が見えるのは、このタペタム領域のおかげなんです。目から入った光は一度網膜を通過したのち、このタペタムで反射されてもう一度網膜に戻ると言う事をしてより詳しい物体の判断を行います)〔記事提供 http://www. angels-tail. com〕
診断・・・暗いところでの運動状態のチェックやタペタムの反射亢進などを確認します。さらに網膜血管の狭細化などを確認して、網膜の状態を観察していきます。網膜の変性はいちどきに網膜全体に起こらず、内側から徐々に発症し進行していくので、早い時期での検眼鏡検査ではほとんど発見できないのです。網膜電図記録テスト(EGR)は異常のない犬を3-5歳時に発見することができ、異常があれば9-12ヶ月齢で発見できるのです。この診断はテストが慎重に行われているならば、とても信頼性の高いものです。
海外の取り組み
現在欧米でブリーディングを考える個体を対象に通常行われている眼科専門医によるアイチェックは、チェック時に疾患を発症または疑われた犬をブリーディングプログラムから外すことでPRAの減少に大きく貢献しています。
アメリカではACVOの眼科専門医の診断をさらにCERF(Canine Eye Registry Foundation)に登録、貴重なデータベースとして結果が生かされています。
またイギリスではKC(Kennel Club)/BVA(British Veterinary Association) Shemeというシステムのもと、ケンネルクラブと獣医師が提携し、一貫して遺伝性疾患に取り組む姿勢があるので、ブリーディングを考える犬に関しては、アイチェックも普通に行われ、結果はデータとして使われています。股関節形成不全のチェックの結果数値もラブラドールレトリバークラブが冊子として販売し、PRAに関しても知ることができます。
さらにフィンランドでは前号でも触れました通り、アイチェックの結果およびそれを生かした別の調査結果等もラブラドールレトリバークラブの会報で告知されています。例えば2002年の5月8日から9月10日までに遺伝性疾患の検査を受けた犬は214頭いましたが、これらの犬についての結果がラブラドールレトリバークラブの会報に載っていました。
これによって私達は、フィンランドからやってきた子についても、その兄弟犬や母親、あるいは父親のその他の子孫についても日本にいながらにして正確な情報を知ることができるのです。
最新のDNA検査の展望
1999年9月、ラブラドールレトリバーのPRA撲滅にとって画期的な進歩がありました。アメリカのラボであるOptigen社がラブラドールレトリバーにおけるPRAの遺伝子マーカーを突き止めたのです。
遺伝子の研究においては、遺伝子自体の発見は難しいために、すぐ近くに存在している遺伝子マーカーを突き止める方法が用いられています。遺伝子マーカーはprcd(進行性桿・錘細胞変性)遺伝子と常に一緒に遺伝するので、prcd遺伝子を持っている場合には、そのマーカーも存在し、prcd遺伝子を持っていない正常な個体の場合には、存在していません。つまり遺伝子マーカーを調べれば、prcd遺伝子の状況がわかるのです。
Optigen社のテストは、血液を採取し、それを凝固させない状態で送ったものを検査し、診断するものです。判定は3段階に分れ、以下がその詳細です。
パターンA 正常 この診断を受けた犬はPRAにならない。子孫にprcd遺伝子を伝えない。
パターンB 遺伝子のキャリアー この診断を受けた犬はおそらくPRAを発病しない。しかし子孫にprcd遺伝子を伝える可能性が高い。
パターンC おそらく発病する 子孫に遺伝子を伝える
さらに研究が進み、現在では遺伝子マーカーではなく、遺伝子レベルでの特定ができるようになりました。それにより、ラブラドールの場合、マーカーテストではこれまでパターンBに振り分けられていた犬も、その多くがパターンAと認識されるに至り、ここへきて正確なデータが確立されつつあります。
以前はアメリカのラボに血液を採取し、血清を作って送らなくてはなりませんでしたが、以下のオーストラリアのラボ(GTG)では、アメリカ同様の検査を、口腔内の粘膜採取により受ける事ができます。
JKC(ジャパンケネルクラブ)でも、アジアインタードッグショーの会場において2008年からGTGのブースを設置。今後ますます犬の遺伝性疾患への取り組みは広がっていこうとしています。
GTG Genetic technologies (オーストラリア)日本語ページ

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